神は逆立ちで猫を眺めていたようだ

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 男が少女を見つけたのは、月も星もでていない、なめした皮のような雲に覆われた空が見える、夜のことだった。    男が少女と出会うことになったのは、赤い煉瓦で組まれた、古風な作りの建物の、屋根の上だった。    なぜ二人が出会うことになったかと言えば、男は借金返済の為に、この辺りの住宅街を値踏みしていた空き巣で、少女は空が頭上に無いと眠りにつけない、天井恐怖症だったからだ。    とりあえず、双方そんな切実な理由で出会って、そしてそんな二人が最初に交わした言葉はこうだった。   「こんばんは」   「よい月夜ですね」    上は空き巣の、下は天井恐怖症の。    どちらもどこか間が抜けていて、どちらもどこか出会うべくして出会ったような、そんな必然感のある、普通の挨拶だった。
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