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ざぶざぶと水の中を歩くのはためらわれる。茶色くにごった水の中を想像すると、どこに危険が落ちているか分からないからだ。 階段をおりると、父も母も眠っていた。 起きることを忘れているように見えた。 あつい、水のうえにいるのに、どうしてこんなにあついのか。どうして、わたしが目を覚ますと、この家はずっと揺れているのだろう。食べ物はいつでもしけっている。 どこにも、行く場所などない。皆、目的を忘れている。 今は、ただ死んでいる。 生きることなんて思い出せない。 希望は、紫外線にかきけされてしまうのだろうか? 昔、田んぼのあぜ道のど真ん中で、いつか都会に行ってやる、と思っていたわたしを思い出した。 引っ越す前のあの辺は、まだ水に浸っていないのだろうか。まだあの土臭いにおいをのこして ジージーと蝉が鳴き誇っているだろうか。 そんなの、知るか。 わたしは眠っている2人の足をわざと踏みつけて、また二階にのぼった。 階段はしめっていて、足の裏を不快にべたべたと汚した。
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