第一章

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   薔薇の花のように、葬魔燈の纏う長いスカートが広がる。  彼女は、黒い薔薇のような圧倒的な美しさと、同様の危うさを内包しているようだった。  でなければ、この表情の説明がつかない。    小馬鹿にしたような微笑みは消えず、紅い瞳が舐めるようにこちらを見ている。  それはさながら、猛獣の舌舐めずりと等しい。   「よ、用件はなんだ。あと、君は人間なのか?」  舌が上手く動かない。葬魔燈の放つ狂気に似た雰囲気に呑まれているからだ。    葬魔燈は、ゆらゆらと小さな体を揺らした。  それが笑っているのだと気付くのに数秒かかった。   「クフフフ。ばぁか、ばぁ~か。貴方はぁ……とってもとぉっても、お馬鹿さぁんね」   「葬魔燈が人ぃ間? 私が貴方みたいな下等生物と同じぃぃ?」   端正な顔立ちがさらに歪む。紅い唇はつり上がるのではなく、もはや――裂けた。 「私はアリィィス。人よりも、もぉぉっと高尚なアリィィス。お・分・か・り・?」
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