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「き、君が人じゃなくて、そのアリスというやつということは分かった」
『理解がはやくて何より』と、葬魔燈は体を揺らす。
「それじゃ、そのアリスとやらが僕に何の用だ?」
葬魔燈は口元を隠すように、ドレスの長い袖に隠れて見えなかった黒い革の手袋をした指を当てた。
「用件なんてなぁいぃ。葬魔燈はぁ、からかいにきたのぉ」
『貴方をぉ』と、指を向けられる。
葬魔燈の右目にある種の光が宿る。
とろぉんと、熱に浮かされたような笑みが浮かんだ。
僕に加虐を与えるところを想像しているのだろうか。
何にしろ、これは逃げられる最後のチャンスかもしれない。買い出しした荷物のことが気がかりだが、逃げた後で取りにくるとかどうとでもなる。
大切なのは、今を生きることだ。
視線はそのままに、後ろにジリジリとゆっくり後退する。
もう少し、生け垣に近づくことができれば、それを飛び越えて逃げることが出来る。
幸い、葬魔燈は自分の世界に入ったようで、こちらを注視してはいない。
――あと少し……。
――あと三歩……。
――今だっ!
「なぁにをぉ、考えてるのぉ?」
割り込むように足に何かが絡み付き、公園の中心に向かって引き倒された。
「くっ……!」
必死に顔を上げた瞬間、世界が圧倒的な闇に塗りつぶされた。
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