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何かを求めるように、何かを探すように、彼は夜道を歩き続ける。
ヒタヒタヒタヒタ。
彼の足音はか細く。
ヒタヒタヒタヒタ。
けれどたしかに踏みしめ。
自らの目的が分からぬように、ただ、歩く。
ふと、その足が止まる。見上げた先に煌めく月。太古よりこの空に在り続ける唯一の松明。
もし、彼の感情が生きていたとしたら、もし今も生きているのなら、眼に映るものを何と思ったのだろう?
変色した手を伸ばす。
月へ向かい、されど虚空を掴み。
幾度も幾度も伸ばし、何度も何度も虚空を掴み。
不思議そうに見上げ、虚しそうに見上げ。
刹那――…
首が飛んだ。血が、夜に散った。他ならない、彼の黒い血が。
舞う黒血に透けた月は、何故だか赤く染まり、やがて落ちた。そこにはやはり、白銀の月があるのだった。
「――ア……リ……」
彼自身、なんと呟いたのかわからなかったろう。彼の眼が閉じた時、灰と化して消えてしまったのだから。
やがて――彼の消え失せた近くに、ふわりふわりと、何かが舞い落ちた。
夜よりも深い、漆黒の羽であった。
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