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† †
『そこ』に、かすかな泣き声が木霊する。
地に頭を伏せ、すすり泣くように少女が泣いていた。
『そこ』がどこなのかわからない。建物の中なのか、床の木目だけが見えた。
あとは暗闇に呑まれ、それ以外のことはわからない。
黒以外の色といえば、おぼろ気に浮かぶ少女の輪郭。
黒い紙にそれだけを貼りつけたように、彼女は呑まれることなく浮かび上がっていた。
ふと、声がとまる。
伏せるようだった顔が起き上がり、少女はゆっくりと立ち上がりこちらへ歩きだした。
すると、ついさっきまで浮かび上がっていた少女の姿はあっという間に黒に呑まれ、軋むような足音だけが響く。
『貴方は……』
間近で声はするのに姿は見えず。
何かを訴えたいのか、しかし声は途切れてしまった。
『そう……まだわからないのね』
少女は寂し気に囁く。
『――はもう目覚めているわ』
その一部分だけがノイズが混じったように歪んだ。
『烏にお気をつけなさい』
最後の言葉とともに、世界は色を取り戻した。
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