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広場の中央には、キャンプファイヤーより一回り大きな組み木。
その隙間からは、微かに人の手などがうかがえる。
「では、点火しますね」
火の灯った松明を手に、グレイが周りの村人に告げる。
そして、組み木に火を灯そうとした時――。
「待ってっ!!」
急な声に、グレイは思わず手を止める。
そこには、ヴァイオリンのケースを片手に息を切らせているリエーリが立っていた。
彼女はグレイの前で立ち止まり少し息を整えると、真直ぐグレイを見据える。
「あの……即興だけどいいかな? 鎮魂曲」
「っ……うん、頼むよ」
「ありがとう」
グレイが少し驚いた顔をした後、快く承諾する。
その言葉に、リエーリは笑顔で礼を言うとケースから少し古びたヴァイオリンを取り出す。
弦を手に取り、構えるとリエーリはスッと目を閉じ集中する。
「では、点火」
静かに組み木に火を灯す。
それを合図にリエーリは、旋律を奏で始める。
悲しい音が響く中、グレイと村人達は静かに黙祷を捧げる。
燃える炎は屍を炭に変え、空へと還していった。
組み木が真っ黒に燃え尽きて崩れた頃、静かにヴァイオリンによる鎮魂曲が終わりを迎えた。
「…………埋めましょうか」
黙祷が終えたグレイが周りに促す。
静まった空気の中、皆が黙々と作業に取り掛かり始めた。
「えっと……グレイ君だよね、後でいい?」
作業が始まって少したった頃。
組み木から遺骨を運んでいたグレイに、リエーリがそう一方的に告げる。
「ちょっ…………」
グレイが慌てて呼び止めようとしたが、そのままリエーリは他の人を手伝いに行った。
作業を中途半端な所で中断させる訳にもいかず、グレイは遺骨を村人達が掘ってくれた穴へと運んで行った。
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