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翌日、日も上りきり昼前に差し掛かった頃。
村の入り口に人だかりが出来ていた。
その中心には、グレイとリエーリ。
出発する二人を見送ろうと村人達が集まったようだ。
「リエーリお姉ちゃん、またヴァイオリン聞かせてね。約束だよ」
あの時の少女にそう言われて、リエーリは嬉しくなったのだろう。
笑顔で少女の前でしゃがみ小指を差し出す。
「うん、約束ね。もっと上手くなって新しい曲を聞かせてあげるね」
そう約束し、指切りを交わすと少女は既に待ち切れないような顔で喜びを表した。
「あっ、僕も僕も」
「あたしもっ!!」
その少女を皮切りに、他の子も次々と小指をリエーリに差し出す。
その様子に彼女は思わず笑みを浮かべると、立ち上がる。
「はい、押さない押さない。順番に並んでね」
一方グレイはというと、リエーリ達の様子を朗らかな表情で眺めていると、一人の村人が話しかけてきた。
「すいません、感謝もしきれずに」
「いえ、一泊させて頂いただけです。……………一つ、質問をいいですか?」
「はい、よろしいですが…………」
余りに急に話を変えて、グレイが聞いてきたので彼は少し不思議に思いながら首を縦に振る。
「ありがとうございます。なんで、こんな所に村を?」
この村を初めて見た時から、グレイはずっと不思議に思っていた。
戦場の最前線となる国境の近く、更には交易も無いような森の中で村を建てるメリットは無い。
仮に戦時前に出来た村だとしたら、もっと規模の大きな村の筈だ。
「わかりませんね。私は生まれてから、ずっとこの村に住んできましたから。ただ、祖父はこの村を決して出るなと言ってましたね。今でも不思議な話ですが」
そう最後に笑いながら彼は、そう答えた。
親切な回答に疑問は更に深まったが、それ以上気にするのは止めた。
ちょうどリエーリの方も終わったようだ。
「じゃあ、そろそろ行こうか?」
「うん、行こ。グレイ君」
確認を終えると、二人は手を振り村を後にしていった。
小さな村の声援に後押しされて。
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