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「ごめん…………」
そう一言告げ、目の前の兵士を切り付けた。
とっさにその敵兵は、手にしている片手剣で大剣を防ごうとする。
しかし、防御など意味が無いと言うかのように、グレイの漆黒の大剣は敵の武器も鎧もそして身体も抉り取る。
正に一瞬で出来上がった無残な泣き別れ状態の死体を見て、一人の兵士が声を張り上げた。
「“与えられし者(ギフター)”が来たぞっ!! 総員、気を引き締めッ…………」
「ごめん…………」
その言葉を遮るかのように容赦無く首を飛ばすと更に次の敵へと切りかかる。
苦しみも無く一撃で息の根を止めるのは、彼なりの情けかもしれない。
今のグレイの戦う理由は、先程の仲間の仇では無い。
そして、その理由は誰もが共通するものだった。
生き残る事ただそれだけ。
「ああ゛ぁぁッ!!? 足がぁ!? 足がッ…………」
悲痛な声が響く。
いつまで経っても、決していい気分なモノでは無い。
グレイの軍服が真っ赤に染まった頃には、自分の切り込んだ敵の部隊は皆、動かなくなっていた。
自分が殺した死体の上に立ち、グレイが感じたのは嫌悪より先に心の底からの安堵だった。
「…………他の皆は」
「グレイっ!! 無事だった?」
ようやく気持ちが落ち着き、皆の様子が気になった矢先、彼と最も親しい彼女の声が聞こえた。
その声にいち早く反応したグレイは振り返ると、確かに自分の周りに空色の光を纏ったエストがこちらに向かって走って来ていた。
「エストっ!! 君も無事だっ…………」
エストの無事を確認でき、思わずグレイの頬が緩んだ。
自分も駆け出し、そう返事をしようとする。
しかし、その言葉を遮るように、“白くて小さい何か”が彼女の左胸を突破った。
「え?」
「あれ?」
二人の思考は同時に止まった。
しかし、現実は止まること無く、エストの軍服の左胸に赤い染みをつくる。
そして、追い討ちをかけるかのように、またその“何か”がエストの額を…………。
「エストォッッ!!!!」
必死で彼女に伸ばした手は届く事は無く。
エストは紅く染まった地に伏した。
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