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彼女の奏でる旋律は柔らかく、何処か優しい音色。
曲名はわからずとも、聞き入ってしまう物だった。
無論その場にいたグレイも例外ではない。
彼女の容姿も加わり、完全にその場で立ち尽くしていた。
「………………」
そして、クライマックスにさしかかった音の波は一気に押し寄せて、一瞬で止まる。
その瞬間が時が止まったかのように静寂が辺りを包む。
「スゴーイ、リエーリお姉ちゃん」
その静寂を破ったのは、幼い歓喜の声。
それを皮切りに一斉に幼い子供達が、小さな演奏会を終えた彼女に集まる。
「じゃあ、みんな戻ろっか」
笑顔でそう言うと、彼女は子供達を引き連れて、広場の片隅にあった道を歩いて行った。
「…………エストにそっくりだったな」
『それだけじゃねぇぜ、左手にグローブを付けてた。多分、聖痕(スティグマ)だぜ』
「っ!?本当かい、ガデュウ」
ガデュウの言葉にグレイは耳を疑い、聞き返す。
余りに印象的な容姿と音色に気が取られていたので、全く気付かなかったがようだ。
『あぁ、確かに見たぜ。追うのか? 見ず知らずの女追うなんて変態じゃねぇか』
「五月蠅い、キミの方がよっぽどいい性格してるよ」
『ハッ、言うねぇ』
ガデュウの台詞を一蹴すると、グレイは先程の彼女達の歩いて行った道を進んで行った。
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