鏡の中の記憶

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少女は真っ赤になって鏡を叩いた。   余りに力いっぱい叩くので、割れないか心配になる。 わかったわかった。 どうどうどう。   俺は慌てて引っ越し用のダンボールから、筆記用具を引っ張り出す。   受験戦争の最中の学生にとって、この手の物はすぐに見付かる。 鏡には笑うなの文字が、そのまま逆さまに書かれていた。   俺は鏡の前で膨れている少女に、合図を送り文字を書く。 逆に書くのは面倒なので普通に書いた。   〔ごめん〕 〔かわいかったから〕  少女は最初きょとんとしてたが、ようやく文字が読めたのか赤くなった。   少女は少し考えて文字を書く。   (文字逆さだよ) そう書いた少女の文字も逆さまだった。 ”ぷっ!” 俺は文字を拭き取ると新しい文字を書く。   〔君の文字もね〕 少女は首を傾げた。 こうして彼女と僕の、近くて遠い近距離文通は始まった。   引っ越しして数日、毎日の様に彼女は表れた。 彼女の名はゆい。 朝倉ゆいだ。 歳は13才。   見た感じは小学生なんだけど、彼女はれっきとした中学生だそうだ。
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