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今度はハッキリと聞き取れる、通った声。 「……おや、怖がって逃げ出さなかったのは君が初めてだ」 なんだか懐かしいような、落ち着くような男の人の声だ。 そう思ったら自然と緊張がほぐれて、足も動くようになった。 良かった……オバケじゃなかったんだ。 「こっちへおいで、こんな日に人と会話することができるなんて思ってもみなかった」 ギクリと、再び僕は緊張する。 知らない男の人が僕を招いている。 それはオバケとは違った恐怖だった。 逃げたいけど、再び足が鉛と化す。 しかも今度は鉛だけじゃない。 まるで磁石に吸い寄せられているかのように鉛の足が、ゆっくりと声の方へ向かっていくのだ。 これが好奇心というものなら、好奇心なんていらない。 心の中で叫んだ。
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