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わたくしが飛香舎へ戻ると、
すごい騒ぎになっておりました。
「女御様!!
今までどちらに…!?」
わたくしに詰め寄る
女房たち。
わたくしは、何も話さず、
奥へ入りました。
すると、山吹がやってきて
「女御様、今まで
どちらにおいで
だったのですか!?
皆、心配していたのですよ!
女御様には、女御様という
自覚が足りませぬ…!
いいですか、女御様…」
山吹のお説教が続く中、
わたくしは、今しがた
別れたばかりの公達、
道茂殿のことばかり、
思いだされておりました。
どうしたというのでしょう?
道茂殿にお会いするまでは、
紫のことばかりが
頭に浮かんでおりましたのに。
道茂殿のお声、お姿、
お顔をおもいだすたび、
体が熱く、顔が赤く
なっていくのが、
自分でも、よく
わかりました。
…これは、恋??
わたくしは、恋を知りません。
ですが、女房たちの話や
物語などで、どういうものか
少しは理解しておりました。
愛しい殿方を思うだけで、
体が熱く、胸が苦しく
なるということ…。
今のわたくしの状態は、
まさに…それ、なのでした。
ですが、わたくしは、女御。
帝の“妻”となる身です。
公達との恋など、
許されるはずも…
ありません。
入内したわたくしの務め。
それは、帝に気にいられ、
寵愛を頂き、中宮となり、
次代の帝となるべき皇子を
お産みまいらすこと…。
それが、藤原道長の娘として
生まれたわたくしの宿命。
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