53人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで…菖蒲殿。
女御様は如何お過ごしか?」
ふいに道茂殿が尋ねられ、
わたくしは、
「女御様におかれましては、
お健やかにお過ごしで
いらっしゃいます。
ただ…。
早々のお宿下がりを
お望みのようで
ございます。
お屋敷に置いてこられた
乳母と乳姉妹の
紫殿のことが
お忘れになれないように
ございます。
できることなら、宮中に
一緒にきてほしかった…。
と、仰せでした。」
と、話しました。
道茂殿にお話した所で、
紫たちを呼べるとは
思っておりませんが、
一縷の望みを託したく…。
道茂殿は、悲しそうな
表情をされたかと思うと、
「慣れた女房と
引き離された女御様の
お寂しさ、お辛さ、
私から帝にお話して
みましょう。
帝のお許しあらば、
女御様の乳母と乳姉妹の
女房を宮中に
呼べるかもしれませんしね」
と、仰せになりました。
わたくしは、
「ありがたきことに
ございます!!
女御様もお喜びに
なられましょう…!」
と、扇ごしではありますが、
笑顔でこたえました。
そして、飛香舎の前まで
くると、道茂殿は、
「ここよりは、おひとりで
お戻りなさい。」
と、おっしゃいました。
わたくしは、
「道茂殿、お送り下さり、
ありがとうございました。」
と、一礼し、飛香舎へ
戻りました。
そのわたくしの姿を、
愛おしそうに見つめる
道茂殿の姿など、
感じることもなく…。
最初のコメントを投稿しよう!