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「面倒臭いのよ。第何代が何て名前だとか、それが起こした殺戮が云々(うんぬん)だとか、反逆者が如何のとか。今のアタシには一切関係無いじゃない」
「ですから歴史を学ぶ事は――」
「――アイツを殺す、術になるんでしょ? はいはいごめんなさい先生、でもアタシ疲れたからちょっと抜けるわ」
一気にまくし立てる様に言い放つと、桜歌は椅子から腰を上げて扉へと向かう。
板張りの床を進んでいると、溜め息ともつかぬ小さな吐息に交えた言葉が耳に入った。
「……二時には、お戻り下さいね」
「……分かってるわよ」
引き戸に掛けた手を止めて返答すると、桜歌は扉を一気に引き開けて外へと出た。
時刻は深夜零時過ぎ。
活動時間が夜の吸血族としては、当然と云える時刻。
空には、上弦に近付きつつある歪(いびつ)な月が浮かんでいた。
軋む床に足を着けたまま、細くも長い溜め息を吐く。
――――聞きたくなかった。
だから、止めた。
先に続く言葉を。
聞きたくなかった。
己の愛する人が、邪神に魂を売った事実なんて。
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