34人が本棚に入れています
本棚に追加
桜歌には、理解出来ない。
邪神に魂を売ると云う事は、自らの魂と肉体を邪神捧げると云う事だ。
長期間体内に邪神を宿し続ければ、生命力の強い吸血族と云えど、寿命は確実に縮む。
そして――
……やがて、躯(からだ)の内から、邪神に喰われるのだ。
その様な危険を犯してまで、何故。
それ程に我ら一族の争いを集結させたい理由が、あの男の執念が、桜歌には解らなかった。
中庭を一望出来る一室の前で、足を止める。
首領の自室として与えられる間の前。
外界とを区切る硝子窓に手を掛けて、それを開けた。がた、と、やや耳障りな音がした。
窓一つ分を開けると、そこは小さな縁側になる。
吹き込む風が心地良い。
裸足のままの足を放り出して、そこに腰掛ける。
桜歌は虚ろな眸で、ただ、中庭を眺めていた。
きっと、理解出来ない。
理解しようとしたとしても。
己よりも永く生きている彼の思考には、恐らく、生涯を懸けても追い付く事は出来ないのだろう。
最初のコメントを投稿しよう!