紅、闇に泪

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  男の背後には、全身を刻まれた者の姿が在る。 静脈や急所を故意に外して刻まれた傷からは血液が溢れ出るも、吸血鬼である彼の致死量には至らない。 意識を保ったまま苦しげに呼吸を繰り返す彼を背に、漆黒の男が言葉を紡ぐ。 「……去れ、桜歌(オウカ)。なれば今宵は見逃してやる」 「やぁよ。折角、簓(ササラ)なんて大物が釣れたのに、アタシがそれを逃すとでも思ってるの?」 出された条件を受け流して、凶暴な笑みを返す桜歌。 弧を描いた紅の唇は、更なる言葉を続ける。 「――――アンタは、さっさとアタシを返してソイツを助けたいだけでしょう? 苦しそうに鳴いてる、小鳥ちゃんを」 視線で簓の背後の男を示しながら、紡いだ言葉。 しかし皮肉めいた桜歌の言葉にも、簓は憮然とした表情を崩さない。 常に表情を崩さない彼に、桜歌は更に詰(なじ)りたくなる衝動を覚えるのだ。 「……つまんない男ね。一族思いなのか、そうじゃないのか、分からないわ」  
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