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桜歌のその言葉に、漸(ようや)く簓の表情に変化が表れる。
――と言っても、眉頭がやや下げられた程度だが。
「……少なくとも貴様よりは、己の一族を想って居るつもりだがな」
今度は、桜歌が不快感を覚える番だった。
露骨に眉を寄せて居るのが自分でも分かる程に、眉をしかめる。
「……アンタなんかと比べないで。それに、アタシは本家の首領よ? アタシが本家を護らないで、誰が護るって言うの」
「本当に想って居るならば、無駄な争いは避けるだろう。貴様がお遊びのつもりでした事は、その無駄な事だ」
風が吹く。
桜歌の後悔の念を煽る様に。
簓の言う事は正しかった。
首領程に力の有る者が、補佐でも側近でもない者に手を出す事は、ただの虐殺行為でしかない。
本来、対立している神狩(かがり)本家と分家だ。
その屠殺行為に意味は有るとしても、殺された側の一族の反感を大いに買い、全面的な紛争になりかねない。
そうなれば当然、己の一族からも死人は出る。
己の一族を想うならば、本来、無駄な殺戮は行うべきではない。
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