34人が本棚に入れています
本棚に追加
答えなど、自分が一番良く知っている。
しかし、それを認める事が出来なかった。
その答えは、自分の立場や種族、そして、己の一族全てを裏切る事になるから。
風が駆ける。
紅に輝く、桜歌の髪を揺らして。
刀を鞘に戻した桜歌は、その場に膝をついた。
「アタシは…」
呟く様な自問を、風が攫って行く。
「何で、アタシは……」
護る様に、温める様に、己の肩を抱く。
強く、強く。
指先が白くなる程に、強く。
「如何してアタシは…――」
認めたくない。
しかし自分の中に既に生まれている感情は、偽りのないものだと知っていた。
認めたくない。
認めない。
けれど、その感情を捨て切る事は出来なかったのだ。
「何で……!」
何故アタシは、こんなにも。
あの男に焦がれ、
あの男を愛しているのだろう。
桜歌の言葉を嗤う様に、木々の葉音を立てながら、風が駆け抜けて行った。
最初のコメントを投稿しよう!