紅、闇に泪

6/18
前へ
/35ページ
次へ
  答えなど、自分が一番良く知っている。 しかし、それを認める事が出来なかった。 その答えは、自分の立場や種族、そして、己の一族全てを裏切る事になるから。 風が駆ける。 紅に輝く、桜歌の髪を揺らして。 刀を鞘に戻した桜歌は、その場に膝をついた。 「アタシは…」 呟く様な自問を、風が攫って行く。 「何で、アタシは……」 護る様に、温める様に、己の肩を抱く。 強く、強く。 指先が白くなる程に、強く。 「如何してアタシは…――」 認めたくない。 しかし自分の中に既に生まれている感情は、偽りのないものだと知っていた。 認めたくない。 認めない。 けれど、その感情を捨て切る事は出来なかったのだ。 「何で……!」 何故アタシは、こんなにも。 あの男に焦がれ、 あの男を愛しているのだろう。 桜歌の言葉を嗤う様に、木々の葉音を立てながら、風が駆け抜けて行った。  
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

34人が本棚に入れています
本棚に追加