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「納得いかないわ……」
第一区で一番の人気を博している酒場、セルシルス。
そのカウンターの一席で、シンは一枚の紙を恨めしげに睨んでいた。
その紙には以前の仕事で賞金首を捕まえた報酬が書かれているのだが、やけに金額が少ない。
ぎろりと、前でコップを軽快に洗っている男を睨み上げる。
「ちょっとマスター、あんたいくら抜き取ったのよ」
「抜き取ったとは失礼な奴だな。ちゃんとフェルには許可が下りてるんだよ」
シンの反応が面白いのか、にやにやと笑みを浮かべている男はこの酒場のオーナー、シン達からはマスターと呼ばれている。
その正体は、ブリザードの総長、フェル・ラウンドのパートナーであるとシンが知ったのは、三年前の戦いが終わってすぐだった。
最初は驚いたものだが、未だに酒場の店主を勤めている男を何度も見ていては、驚きなどすぐに解消されてしまった。
「つーかよ、お前らが溜めに溜めまくったツケはどう払う気だ? 払う気あんのか? こら」
「るっさいわねぇ。こっちだってちゃんと考えてるんだから黙れ」
お互いに笑みを浮かべ、端から見れば友好的に見える。
だが、どちらも額に青筋を浮かべて目が笑っていないせいで、今にも激闘が起こる三秒前。
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