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「はいはい、考えるのはやめだやめだ」
考え込む二人に、マスターは手を叩いて話を打ち切った。
「四番が帰ってこないことには始まらない話なんだ。帰ってからでもいいだろ?」
「……それもそうね」
元々、考えるのはシンの本分ではない。
後のことはフェルやマスターに任せておこう。
「あ、おはようございます。みなさん」
話続けていたせいで温くなったコーヒーを飲んでいると、複数の足音と聞き慣れた丁寧な声が聞こえて来て振り返る。
「おー、ミミカちゃん。おはようさん」
「おはようございます。マスターさん」
柔らかな物腰で挨拶する女性に、シンは毎回行っている溜め息をついた。
「あなたを見ると、人間の神秘を感じるわ」
「えぇ?」
黒を基調としたドレス状の服。
髪は短く纏めた艶やかな銀髪。
ぱっちりとした目が幼さを残しているものの、くっきりとした目鼻立ちや、すらっと伸びた手足が大人らしい女性を表している。
三年前までは少女にした見えなかった女の子は、すでに面影すらなかった。
「前はあんなちんちくりんだったのに、何でこんなに成長するのかしら?」
「ち、ちんちく……!?」
シンの妙な表現に目を丸くするミミカだが、マスターやルフドもシンと同じ感想を密かに抱いていた。
三年前まではシンより少し高いぐらいで似たり寄ったりだった身長が、最初の一年ほどでぐんぐんと背が伸び始めたのだ。
それこそ、ベルの能力者であるシンが、人間の神秘を感じるほどにだ。
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