死章

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「……分かりました。貴方の望みを叶えましょう。しかし必ず叶うとは言えません。貴方の言う想いの力が強ければ叶うでしょう。そうでなければ……それでも再生を望みますか?」 聖女は最終確認をブライドに問う。それはむしろ警告であった。しかし青年のその真っ直ぐな視線を受け、聖女は表情は僅かに強張る。 「ここで起きた事はおそらく貴方の記憶には残らないでしょう。再生に伴って世界がどう改変され記憶が変わるかも分かりません。それでもいいのですか?」 「――はい」 聖女フィーネは純白の翼を勢いよく広げる。一瞬の羽吹雪のあと、女神は天を貫く光の塔に沿って上昇を始める。くるくると、光を振り撒きながら。まるで種を蒔くように。 光の量は増していく。そして世界は白で埋もれようとしている。 ブライドは最後の仕事にかかる。剣を突き落とす形で握るとカルディアの前に立つ。そして柄を頭の上まで持っていく。 カルディアを倒して初めて再生は成し得る。そして解放させる。剣を向けられてカルディアは片頬を吊り上げた。 「ふっ、やるがいい……僕はもう疲れた……もううんざりだ……」 その湿った言葉の重みはブライドの心に染み渡る。決して交わることのない対なる二人。カルディアは呆然と、昇天していく女神を見送る。その延長線上にはかつての仲間の姿があった。姉であるエルディーンの姿もそこにある。 ブライドにとっても母であるその姿を見た。 お互い何かを交信したのか二人の天使の頬には涙がつたる。そして、 「あぁ……綺麗だ……あの女神のように……君の世界も綺麗になるといいね――」 女神が……涙が……創始の光が……想いが弾けたその瞬間。勝者の剣は雄叫びと共に敗者の胸を貫く。世界は弾け、光は全ての因果を飲み込んだ。 それが終末ではなく、夜明けの光と信じて――
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