エピローグ

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――蒼い空、快い風と輝く太陽の下で、美しいクリームゴールドの髪を揺らす女性がそこに居た。貴婦人だがまだまだ若い。貴族服であるドレスを慣れているのか着こなし、風がフワリとレース部分を羽のようにしていた。 城の屋上テラスから見渡せる町を前に、何やら手を合わせて祈っている…… まるで嵐の前の静けさのようにバルコニーには風だけが通り過るだけだった。   太陽は此処を照らし出してるが、決して熱くはない。雲は流れ、ただ静かな時が流れ行く。 「やはりここにいたのか」 彼女は薄い瞼をゆっくり開ける。そして振り向き、彼女の翠色の強い瞳と貴族服に身を纏った騎士のマリンブルーの瞳がお互いを捉えた。そしてまた祈りを始める。 騎士はその隣に立って横顔を伺う。 「何を祈ってるんだ?」 「あの大戦で無くなった人達全員に対して……」 「そうか、今日はそういう日だったな」 騎士はその瞳を空に向けた。 「そして、あの空白の時間を思い出せないみたい……私すごく痛い思いをしたはずなのに、死んだと思ってた……起きたら草原に……」 「空白……私も思い出せないよ。どうやって彼を倒したか。さっぱり思い出せない。気づけば草原で仰向けになって、メガロポリスは消えていた――」 二人は大空に手をかざす。指の隙間からさすその光は、どこかで見た白い世界に酷似していた。決戦の事を思い出せず、時は10年以上経った。 故郷であるカーライルは無事主権も回復し、英雄二人の舵取りによって復興も遂げた。そして永らく続いた王権政治も英雄二人自らをもって終わりを告げ、王族はただの象徴になった。 これからは国民一人一人の時代なのだ。英雄の役目は終わったのだ。
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