仲裁

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「…………」 無意識のままにフェニをしっかりと抱きしめたオレを見て、ロウスは顎に手を置いて考え始めた。 それに気づいてフェニを抱きしめる力が少し弱まる。フェニは気づくこと無く、グッスリと眠っていた。 「とりあえず、大丈夫か?」 オレの反応を見たロウスからの至極当然な質問。それに小さく頷いて答えた。 今のオレは顔色でも悪くなっているのか? ロウスは深いため息をつきながら机の上に目線を向けて、一つの書類に片手を置いた。 ここからは書類が見えないが、その書類を指でなぞりながら確かめて、再び深いため息をこぼす。 そしてゆっくりとロウスは椅子から立ち上がった。 「今日の依頼は戦争の仲介だ。今からとある場所にお前を飛ばすから、戦争を止めてこい」 戦争の仲介か……例えオレが嫌でもこれは生きる為の仕事。拒否しないで仕事をしなければならない。 ロウスがなんで悩んでいたかわかった。フェニをなんとか剥がして、机の上に優しく寝かせる。 連れていきたいが、巻き込まれて怪我をさせたくない。だからフェニを置いていく事にした。 「顔はローブで隠すこと。見られたら問題になる。他に質問はあるか?」 ロウスの言葉を頷きながら聞いていたが、最後の言葉は小さく横に首を振って否定した。 「じゃあ飛ばすぞ。『フラーズテレポート』」 ローブを被ると同時に、ロウスはオレを転移させる。 完璧に転移したのを見て、ロウスは深いため息をついて書類を手に取った。 「命令か……俺はユウをアイツの手から守れるのかな……」 ――最重要項目書類―― 〇月×日。 名も無き荒野で、戦争をわざと起こす。相手は、隣国の兵士。正確に言えば昔の戦争時の捕虜数千名。 貴重な労働力を失うのは辛いがそれよりも優先する者。その者の虐殺の記憶を偽りの戦争によって呼び戻す。 ユウに戦争を体験させよ。彼は全てを忘れ、私を忘れのうのうと生きている。 彼は自分を捨てた。一方的な虐殺を忘れそれに伴う快楽を忘れ自分自身を表す残酷な暴力を捨てている。 よって、ユウが全てを思い出すように私は戦争を偽ることにした。暴力的な彼を見たいのだ。 それが歳老いた私のささやかな願い。国中に散らばったランクSSS達は、微量ながらも手伝ってほしい。
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