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目の端を踊る黒い影。チロチロと揺らいで、視界を狭めてから少しだけ収まる。
いつもは変だと思うかもしれないが、不思議と違和感は全く無かった。
制限された視界に見えるのは、兵士達の群れと黒煙。
――先程まであった感情、だけど今は無い。死に行く兵士達を自分の過去と合わせて歎き、悲しんだ涙は枯れた。
そのかわりに新しくオレの頭を巡る感情。とても残酷で――何故か心が震える。
死にたくない。小さい頃、生まれた時から根強くあった自分の考え。
何故オレだけがこんな目にあうんだ? どうしてオレは路上裏で寝ている?
腐敗臭が……戦場から流れている。何日も何日もこの兵士達は戦っているのか?
寝もせず食べもせず――毎日毎日武器を振っていたのかな? それとも、オレの脳にこびりついた匂いか?
手が震え、地面に両膝をつく。兵士達が目の前で戦っている間も、オレは考えていた。
この匂い、吐き気がする。生きる為とは言え、こんな匂いの食べ物は食べたくなかった。
オレってここまでネガティブだったか? でも――ここに来てから色々考えている、昔を思い出している。
考えるの――止めようかな? とりあえず今は……
「ギルドから派遣された奴だよな?」
先程の白い鎧を着た兵士が、膝をついているオレにヘルムを外してから再び手を差し延べて来てくれた。
薄い金髪が敵の血を浴び所々赤く染まっている。オレは顔を抑えながら差し延べてくれた右手を強く握った。
「ありがと……もう疲れただろうから……」
左手で兵士の顔を掴み――右手を力強く引きちぎる。
肉の繊維がちぎれた音と共に兵士の悲鳴があがり――後には肉の剥がれた右手と、肩に醜い傷痕が残った。
「休んでも良いよ……」
悲鳴をあげて地面に倒れた兵士の頭を踏み潰す。
兵士の赤い瞳――それに移った自分は、目のほとんどが黒くなっていた。
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