Ⅰ.故郷

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   彼女の名前は、由子(ゆうこ)。  通称、ゆっこ。  今年で中学一年生になる。    現在この施設で引き取られている子供の人数は彼女を入れて四人。  今の所最年長なのがゆっこだ。  彼女は昔から明るくて素直で笑顔が魅力的で、とても人懐っこい子だった。  私がこの家を出たときは、小学五年生になろうとしていたばかりだったけど、二年経った今では背もぐんと伸びて体型も女性に近づき、随分大人らしくなった。  それでも変わらず私を慕ってくれている、私にとって妹のような存在。 「この間、なんでここに来てくれなかったの?」  ゆっこはしがみついたま、私を見上げて尋ねる。  "この間"とはもしかしなくとも、一ヶ月前に職場の面接で里帰りをした時の事だろう。 「ごめんね。あの日は面接のために来たから、日帰りだったし、忙しかったの」 「かなり寂しくて落ち込んだんだから」  苦笑いを浮かべて言い訳をする私に、ゆっこは眉をひそめる。  
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