Ⅰ.故郷

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   じりじりと追いつめられてるような、何とも言えない気持ちになる私。  そんな私の感情を読み取ったように、隣からお母さんが口を挟んだ。 「何言ってんのよ。桜が戻ってくるって聞いたら、その日一日中上機嫌だったじゃない」 「夏子先生!」  意地悪な笑みを浮かべるお母さんに向けて、ゆっこは膨らみのある唇を可愛く尖らせた。  すると、玄関からまた新たに何人かの人影が現れる。 「やっと帰ってきたー!」  それはどれも懐かしい顔ばかりで、私は自分の芯がツンとするのがわかった。  我が家に帰ってきた事を実感した。 「ただいま」  私がそう言うと、みんなは笑いながら答えてくれる。 「おかえり」  その"おかえり"があまりにも優しくて温かくて……私は、今目の前にいる、誰も血の繋がらないその家族がとても愛おしく思えた。  
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