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俺以外、誰もいない教室。
オレンジ色の光が差し込み、風がカーテンが揺れていた。
その中、俺は窓際の席の椅子に足を乗せ、机の上に座り、携帯をいじっていた。
すると、ガラッと教室のドアが開いたので、ドアの方へと視線を送ると、葵が教室に入らず、その場に立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
思わずついた言葉だった。
「別に…」
「今まで、保健室にいたの?」
「どうでもいいでしょ、そんなこと…あんたこそこんな時間まで何してんのよ」
「俺は、委員会に出てる友達待ってんだよ、悪い?」
「別に…」
「…なぁ、なにかあったのか?」
「は?何が?」
「いや、この5年の間に…」
「別に…何もないから」
「だって、なんか…」
「悪いけど、あたし鞄を取りにきただけだから」
「え?ああ…」
自分の机の横にぶら下がっている鞄を取ると、目も合わそうとせず立ち去ろうとしたので、思わず葵を呼び止めていた。
ハッ!
思わず呼びとめたのはいいが、何を言えばいいんだ?
葵は立ち止まり、こっちを振り返った。
暗く冷たい目が俺を見つめていた。
その目を見たら俺は何も言えなくなってしまった。
「じゃ…じゃあな」
たった一言、そう言うことが精一杯だった。
その時の、葵の表情は少し悲しそうに見えたのは俺の気のせいだったのだろうか…。
だけど、教室に差し込む夕日のせいでそう見えただけかもしれない。
けど、確かにそう感じたんだ。
葵は何も言わず、また歩きだし教室から出ていってしまった。
俺は教室に一人ポツンと残された。
また、あの頃の笑顔を見せてくれる葵に戻る日が来るのだろうか。
俺はそんなことを考えながら窓から外を眺めていた。
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