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その日はめずらしく夢を見た。
小学校5年の林間学校、山荘に泊まっていた俺達は初日の夜、夕飯を食べ終わった後に俺と拓とで葵のことを呼び出していた。
「話しってなに?」
葵が笑いなが言ってきた。
「俺が、何言いたいかわかる?」
拓は躊躇なく言ってみせた。
「え?」
葵は少し考えてるようだ。
「あたしのこと好き?」
「そうだよ」
どうしよう…
俺も言わなくちゃ…
でも…
俺は葵に俺の気持ちが拒絶されることが怖くて、言えなかった。
たった2文字の大切な言葉を…
ちらっと葵が俺の方を見て、目が合ったが俺は、ふいに目を反らしてしまった。
俺は葵の答えを聞くのが怖くて、拓よりも先に部屋に戻ってしまった。
俺はあの後どうなったのか気になっていたが、同じ部屋の友達と笑いあっていた。
それは、強がりといってもいいだろう。
俺は必死に気にしない振りをしていた。
夜も更けてくると、眠気に襲われ、いつのまにか眠ってしまっていた。日が昇りはじめて数時間後、俺達は山荘の前で荷物を持ち集合していた。
俺は地面に座りながら友達と談笑していたが、昨日のことが気になり葵の方ばっか見ていた。
すると、葵もそんな俺の視線に気がついたらしく、俺のもとに駆け寄ってきた。
「ユウ」
「何?」
「あのね、背がもうちょっと大きくなったらいいよ」
「え?」
そう言うと、すぐに友達のとこに戻ってしまった。
俺は葵のことをボーと見つめていた。
葵はすべてわかっていたのかもしれない…俺の気持ち…
ふいに葵と目が合ったが、俺は照れ臭くてまた目を反らしてしまった。
俺はうれしかった、何よりそう言ってきたってことは友達より俺のことを選んでくれたんだと思った。
両想いだったんだと思い、すごく…とてもすごくうれしくて俺は舞い上がってしまった。
ただ…舞あがるだけで、何もしなかった。
あの日がくるまで…
その日は自然と目が覚めた。
部屋には朝日が差し込み、清々しい朝といった感じだ。
部屋に差し込む光りは、枕元に置いてある写真楯に降り注がれているように見えた。
ベッドから起き上がると、俺はその写真楯を手にとった。
その写真は林間学校で、登山をした時のクラス写真だった。
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