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その日の授業中、隣に座る葵の顔をチラッと見ると、教科書はただ開いているだけで、ノートはとらず肘をつき手に顎をのせて、黒板をボーと見ているだけだった。
チャイムが鳴り、昼休みになると、葵はどこかに消える。
俺は弁当を持ち、哲平と一緒に屋上へと上がっていった。
屋上のドアを開けると、俺はその場に立ち止まってしまった。
葵がいたからだ。
葵はフェンスに寄り掛かりながら地面に座り、パンをほうばっていた。
「どした?早く入れって」
そう言うと哲平は俺の背中を押した。
葵は俺達に気付き、パンを袋に入れて立ち上がろうとしていた。
「あれー?町田さんじゃん」
なんの躊躇もなく葵に声をかけた哲平を少しうらやましく思った。
「こんなとこで一人で食べてたの?せっかくだから俺らと一緒に食べない?」
「遠慮しとく」
そう言うと屋上から出て行こうとしたので、気がついたら葵のことを制止していた。
「待てって。一緒に食べるぞ」
俺は葵の腕をつかみなかば強引にひっぱってきた。
「ちょっと離してよ」
「嫌だ」
「離してって言ってるでしょ!」
「だから、嫌だって」
葵を強引に座らせた。
迷惑そうな表情をしているのがわかったが、俺は気にしないふりをした。
こうして、なかば無理矢理的に3人で昼飯を食べることになった。
「ねぇねぇ、町田さんってユウと幼なじみなんだって?」
いきなり、哲平が無粋な質問を投げ付けた。
その瞬間、葵がなぜか俺を睨みつけたような気がした。
「別に…ただ家が近かっただけだし」
そのあと、少し沈黙が流れた。
「な、なぁ…それより葵、お前パン一つで足りるのか?」
俺は話題を変えようと適当なことを口にした。
「あんたには関係ないでしょ」
「いや、そうかもしれないけどさ、もうちょっと食べた方がいいぜ。俺の弁当半分あげるからさ」
俺は食べかけの弁当を葵の前に差し出した。
「それ、お母さんが作ったの?」
「そうだけど?」
「いらない」
「え?」
「いらないから!」
そう言うと、立ち上がり屋上から出ていってしまった。
「まぁ、気にすんな。町田さん誰にでもあんな感じみたいだし」
「いや、なんか俺は特に嫌われてるような気がする」
俺が嫌われた理由を探してみるが、やっぱり見つからなかった。
俺は、深いため息をついた。
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