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郵便局員、中瀬太一は、焦っていた。
配達途中、全く見た事無い道へと入り込んでしまったからだ。
地元の国立大学を卒業し、ストレートで郵便局への就職が決まったこの男。
就職で出てきたこの街は、大きな挫折の無いこの男の人生にとって、唯一無二の試練を与えたのであった。
季節は夏。
けたたましい蝉の鳴き声と共に暗くなる空が、より一層の焦燥感を生み出していた。
「何処なんだろうこの道は…
思えば昨日メガポラリス予告を外した時からツイてないな…
このまま帰れなかったらどうなるんだ?
宇宙にでも行くのかな?
あ、宇宙はダメというルールだった。危ない危ない…」
譫言を呟きながらズレた眼鏡を掛け直す中瀬太一。
と、その刹那。
鋭い走りで角を曲がってきた車に遭遇する。
(あの鋭い走り…きっと地元の道に詳しい人だ。あの車に付いていけば知ってる道に出られる筈だ!
何たる幸運!もう君を離さない。絶対誰にも渡さないよ)
突如訪れた光明に、嬉々としてスピードを上げる中瀬太一。
溢れ出る爆音のユーロのビートが、心地良い安らぎのメロディーに聴こえてくるのだった。
そう、この時までは…
銀杏青心小僧
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