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少し熱く成って来た為、喫茶店の看板横の小さな影のアスファルトに座りながら、有木からの電話に出た。
「おはよー!」
呼び掛ける私の言葉に、有木の声は全く聞こえて来ない。携帯電話のパネルを見ながら電波を確認した後に、再度有木に呼びかける。
「有木ぃー、おはよー!」
「って!‥下がりなさいっ!黙って静かにし‥‥」
明らかに、携帯電話は繋がった物の、電話口から私の耳に聞こえて来たのは、私の苦手なザワメク人混みの煩い声と、車の通る様な騒音ばかり。
そして有木の声は全く。一言も聞こえて来ない。
そして何やら有木の代わりに警備らしき相手の、仕事の声が聞こえるばかり。
「もしもーし。もしもーし!‥もしも‥‥」
一人携帯に叫ぶ私を見ながらも、目の前で、ずっと立ち尽くしたまま腕組みをして、俯きながら私を待つ男の姿が目に入った。
目が合うと、男は黙って顔を上げ、何か怪しむかの様に、疑惑の目をしてビル街に出来た人混みを、厳しい目つきで一人黙って眺めて居る。
私は只、何の応答も無い携帯を手に、有木の声を待ちながら、ボーっと黙り込んでしまった。
「貸せっ!」
男は急に、黙り込んで止まってしまった私の手から、携帯電話を取り上げて、急に叫び出す。
意外な男の発言だった。
「仕事しろー!もしもしっ!‥‥何してるんだっ。お前等そっちの状況をハッキリ報告したのか?」
私は険しい男の行動と発言に、驚くばかり。座って居た私は急に、まるで起こされた感じがした。目が覚めたかの如く、影の出来たアスファルトから立ち上がった。
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