携帯電話

4/6
前へ
/40ページ
次へ
 しかも男は朝から耐えない人混みの見える方を向いたままの状態。目を細め、人混みの状況を遠目で見て探る様に。現場を気にして話す口調だったのだ。  暫くして話が途切れ、男は私に携帯を黙って渡し空を仰ぐと、又人混みに目を向けて居た。  朝から訳が解らない。私の中では空回りの状態が続いて居る。何故か自然に男の視線に流されて、携帯さえも受け取らずボーっとして居た。 「おいっ!」 「あっ!はい‥‥」 「しっかりしろっ」  さっきの電話の後から男は、最初のイメージとは全く違う別人の様に、厳しい言葉と視線で訴え力強く無理矢理に、私に携帯を差し出した。 「もしもし」  私は有木からの電話に何故か、ぎこちない喋りで話し掛ける。 ぎこちない――。その理由すらも解らない。只、自分でも訳が解らないから仕方無いのだ。  「あ!もしもし? 貴方、南雲有木さんのお知り合いの方ですか?」  やっぱり――。電話の相手は有木とは全く違う別人の声だった。取り敢えず、男が話して居たらしき相手の質問に私は応えた。  「はい。一応、彼女ですが‥‥有木の携帯電話を拾って頂いたのでしょうか」  私は普通に、それしか頭に浮かばなかった。暫くの間が開いた。そして電話の相手は一言だけ、呟く様に返して来た。 「いえ‥」  電話の相手も又どこか、ぎこちない喋りで話を続ける。陽も完全に上がり始めて居た。暑い街角に影を探しながら、私は携帯を片手に相手の話に耳を傾ける。 「彼女さん、落ち着いて聞いて下さい‥‥。大丈夫ですか?」 image=187019415.jpg
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加