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私は戸惑う事無く相手に対し、適当に返事をする。暑さにも疲れかけて居たのだ。面倒くさい思いが高ぶった。
「普通に大丈夫ですが何ですか?」
応えると、朝から横に居た男は私の肩を軽くポンと叩いて、厳しい表情を変えずに歩き出した。ゆっくりと、入り込めない程の人混みへ向かって――。
その瞬間、私は今一番大事にして居る有木からの初めてのプレゼント。二人の大切なペアネックレスで在る、有木の分を男に返して貰っていない!
有木のネックレスの事を思い出した。
私は電話を片手に男の後を小走りで追って、スーツジャケットの裾を掴み男を止める。
男はそのままの姿勢で逃げる事無く黙って振り向き、静かに立ち止まった。と、途切れた会話のままで私の手にした携帯を指差して居た。
僅かに何歩か進んだ目の前にはタイミング良く、そこに有った店の壁。男はそこに保たれながらも腕組みをして、何か考えて居る様子にも見えて居た。
少し安心した私は、途切れた電話の相手に対して再度訪ねる。
「すみません。それで、話は何ですか?」
「本当に、大丈夫ですね?」
「大丈夫って、言ってるっつーの!」
余りにしつこい相手の質問で私は我に返る。起こされた事を何故か考え更に苛立ちが湧いてきた。
「それでは、単刀直入に‥‥
御報告させて頂きます」
「はいはい。解ったから!
早く言えっつーのっ」
「南雲有木さん。
貴方の彼、南雲有木様は、今朝、五時半過ぎ‥‥」
電話の相手は言葉を詰まらせた様に黙ってしまった。それでも私は、何も考える事無く相手に次の言葉を急かした。
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