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私は寒さに堪えながらも、マフラーに顔の半分を埋め、男を又キツい目つきで睨み付ける。
さっき迄の恥ずかしい思いも、肩に掛けてくれたジャケットへの感謝の意も消え、男に強気な口調で問い立てた。
しかし相変わらずで、そんな私の質問には全く興味が無いかの様に、男は私に聞き返す。
「ねぇー、さっきから聞いてたら、ずっと『――っつーの!』
って、口癖なの?」
私の質問を上手く流して、平然とした男の笑顔。私の中で、更に怒りが膨らみ始めた。
「関係無いっつーの。
人の質問に応えろっつーの!」
男は笑顔で再度手を差し伸べて、極度に震える寒がりな私の体を急にフワッ、と抱き上げて一言。
「これ、君のだろ?牧野 結花!
‥探してたんだよ」
見ると男は目の前に、私の学生証を差し出して、無口で私に背を向けた。ジャケットを、私の肩に掛けたまま、冷たい夜風の肌寒い街道に一人。私を残して歩き出した。
「ちょっ!‥‥」
男は振り向く事無く背を向けたまま、寒い姿で立ち止まり、大人の口調で一言だけ。
「まだ、何か有るの?」
「‥有難う」
と、たったの一言だけを返す。
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