真冬の出来事 1999年12月

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 取り敢えず、男の背中に感謝の思いで学生証の御礼だけは言えた。一安心して前を見る。  すると、まだジャケット無しで寒そうに、背を向けたまま動かずに立つ男。更に一言追加する様に、私の御礼の言葉は無関係の如く話始めた。  「なんか俺、君みたいな明るくて、面白い子と付き合えたら幸せなのにな!」  「えっ?面白い!?‥‥ ってか彼女に失礼だっつーの!」  「居ないから言えるんだろ? 失礼な事、言うなよな」  正直、恥ずかしくて照れる内心。言葉が出ない私は寒い筈なのに、まじまじと私を見て来る男から、目を反らせない不思議な状態が暫く続く――。  私は徐々に、沈黙の時間が苦手に成って来た。まるで逃げる様に、夜空に浮かぶ満月を見る振りをして、頬が赤く染まるのを感じて居た。  沈黙が続く中、男は何を考えたのか、急に顔を崩して変顔で、私を覗き込んで来た。私は変顔の似合う男に流された勢いで、思いっ切り吹き出し、男の前で初めて大笑い。  そして、いきなり男は真剣な真顔に戻り、それは不安気な表情でぼそり、と、呟いた。  「俺と真剣に付き合うのって ‥‥やっぱり嫌だよな?」  急な質問の様な男の呟きに、私も自然体で呟き返す。image=187001199.jpg
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