3人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
扉が開いて、大家さんが中に案内してくれた。ガランとした室内は静まり返り、人が生活しているような気配はない。
段ボールが届く前の私の部屋と同じような、ただっぴろい部屋を、何だか夢を見ているような気持で眺めていた。
キーンという音が聞こえる静かな空間に異様な虚しさを感じた。
「もう何年も、この部屋にはだれもいないんですよ。」
申し訳なさそうに大家さんが口を開いた。
そしてまたしばらくの静けさの後、お父さんが言った。 「精神科に行こう。」
自分の中で規則正しく回っていたと思っていたものが、実はずっと前から狂っていた事実を突き付けられたようで、自分が「普通」の網の中から、こぼれ落ちてしまっていたように感じて、泣くこともできず、ただ茫然と現実逃避をしているしかなかった。
私は無表情でその空虚を眺めていた。
静かな部屋は、いつまでも静かなままだった。
最初のコメントを投稿しよう!