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「綺麗でしょう?」
少女の質問には答えず、クロムは無言で視線を花々へと移した。
そして、眼界に広がる花を目を細めながら見つめる。
暖かな陽の下、会話でもするかのようにサワサワと音をたてる花。
甘い香りに誘われ、美しい翅をはためかせる蝶。
緑の心安らぐ匂いに、強張った四肢から無駄な力が抜けていく。
心温まる、どこまでもどこまでも優しい景色。
このような自然を見ていると、自分が今抱えている悩みが酷くちっぽけなものに思えてくる。
「……本当に、綺麗――…」
目の前の自然美に魅せられ思わず呟くと、少女はクスクスと楽しそうき笑うと、花のような笑顔をクロムへと向けた。
「やっと答えてくれた。このまま無視されちゃったら、どうしようかと思ってたの」
―――えっ?
そう言われても……。
と言うか、別に質問に答えた訳じゃないんですが……。
困ったような表情を浮かべるクロムを見て、少女は再びクスッと笑みをこぼした。
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