花を愛する少女

2/12
前へ
/24ページ
次へ
「綺麗でしょう?」 少女の質問には答えず、クロムは無言で視線を花々へと移した。 そして、眼界に広がる花を目を細めながら見つめる。 暖かな陽の下、会話でもするかのようにサワサワと音をたてる花。 甘い香りに誘われ、美しい翅をはためかせる蝶。 緑の心安らぐ匂いに、強張った四肢から無駄な力が抜けていく。 心温まる、どこまでもどこまでも優しい景色。 このような自然を見ていると、自分が今抱えている悩みが酷くちっぽけなものに思えてくる。 「……本当に、綺麗――…」 目の前の自然美に魅せられ思わず呟くと、少女はクスクスと楽しそうき笑うと、花のような笑顔をクロムへと向けた。 「やっと答えてくれた。このまま無視されちゃったら、どうしようかと思ってたの」 ―――えっ? そう言われても……。 と言うか、別に質問に答えた訳じゃないんですが……。 困ったような表情を浮かべるクロムを見て、少女は再びクスッと笑みをこぼした。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加