70人が本棚に入れています
本棚に追加
「……クロム、今日もリーシャと話さなかったね……」
ウィルは困ったような、それでいて哀しみを帯びた目をクロムに向ける。
クロムは軽くため息をつき、ウィルに返事を返した。
「私が口を挟むのはどうかと思いまして……。それに、あの事を彼女に知られる訳にはいきませんから」
私がクローンという事実は公にされていない。
その事は、城に住む人間でも一部の者にしか知らされておらず、他者には、ウィルとクロムは双子の兄弟であると説明しているのだ。
クローンという存在は道徳に反するものだから――…。
そういった理由から、私がクローンだという事は隠蔽されているのだ。
そしてクローンである事がばれぬように、その事を知らない人間とはなるべく話さぬよう言われている。
話してもいいと言われたとしても、きっと私は話さないだろうけれど。
道徳に反する反さないの前に、そんな事実を人に知られたくない……。
そんな想いが心の片隅にいつも潜んでいるのだ。
そう、どんな時でも。
忘れる事など出来はしない。
最初のコメントを投稿しよう!