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吐いた。自分でも驚いた。血を吐いた。
もはやこの体は血を受け付けなくなっていたのだ。この鋭利な牙が血をいただこうともしないのだ。
それ以来、旧友にも縁を切られ、吸血鬼仲間からも見放され……孤独な吸血鬼人生を歩む羽目になったのだ。
「どうしてこうなってしまったのだ。昔は悪霊に取り付かれたかのような猛威で血をすすっていたというのに……どうしてこうなってしまったのだ」
漠然と頭で疑問を重々しく抱かえながら黄色く点滅する横断歩道をトボトボと歩く。なぜなのだ。どうしてなのだ。どうしてなのだ……。
どうして―――
「きゃっ!」
白い歩道の上ばかり見ながら歩いていたせいで、私は、私とは反対側へ渡ろうとしていた女性に全く気付きもしなかった。
そのまま私は女性にぶつかった。どうやら頭と頭がぶつかったらしく、かなりの痛みが急に襲ってきた。
シャンプーの香りがした。シャンプーの香りと共に、あの女性独特のいい香りがしてきた。
心地よい嗅覚に意識を奪われかけそうになった中、痛覚がそれを遮り「ひぎゃっ!」と女性よりも遥かに情けない悲鳴を上げて私はその場で尻餅をついてしまった。……情けない、情けなさすぎる……。 とりあえず私は頭を抑えながら、くらくら立ちくらみのする己の体を立ち上がらせ、自分がぶつかってしまった女性に手を差し伸べようと、地べたに手を差し伸べた。
「ぅう……っあ! 大丈夫で―――」
そういえば、車にひかれて死んでしまった男の吸血鬼が言っていた。「最愛の者の血は、いったい何味なのだろう? それを知る時はくるのだろうか?」
どうやら、その『最愛の者』とやらに対面してしまったようだ。
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