第二話

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 人生楽ありゃ苦もあるさ。  そうだな。その通りだ。楽がありゃ苦もあるもんだ。  だがな、何故人間どもはこれを、こう間違える?  人生苦があっても楽が来るとは限らんではないか! 「く……貴様……、明らかに先程よりも重いぞ。 ……何だ、もしや貴様はこなき爺の末裔か!? うぐぅ!」  あれほどまでに軽々しかった女性が、5分も立たぬうちに石像になったかのように重たく感じる。この怪奇現象をこなき爺現象と呼ばずになんと呼べばいいのだ。 「なぜこうも重たい。貴様、腹の中に石でもつまっているのではないか? ははっ……洒落にすらならんわ」  近道のため、私は裏路地を通っていた。ビルの明かりも届かぬ暗闇の細道を、私は美女を背負いながら歩いているのだ。……はたから見れば、人さらいでしかない。  この裏道を通ったほうが病院に一番近いのだ。この近くで一番近い病院を普通に行けば、きっと1時間はかかる。この道を通るか通らないかで死の峠を渡るほどの差ができるという脅威の真実だ。  そう、本当にここを通るか通らないかで人生がガラリと変わるのだ。  彼は、自ら不幸に踏み込んだのだ。 「ちょ……すまん、一度下ろすぞ」
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