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近くに公園を見かけ、私は彼女をベンチにそっと腰掛けさせた。にしても何故タクシーが一台も見当たらないのか……いっそ救急車を呼ぶべきか。
いけない、こうしているうちに彼女の唇は青ざめてきている。なにやら呻き声を上げながら身震いをしているではないか。
くそっ、こんな寒い日に薄着をするのが悪いのだ!
しぶしぶ私は自分が着ていたスーツのジャケットを脱ぎ、女性に羽織らせた。
この鼓動の高鳴りはなんなのだろう。あの若かれし頃の、吸血時代によく似たこの感覚はなんなのだろう。この心のざわめきは、いったい何なのだろう。
あぁ、どうやら本気で自分はこの女性を好いてしまったようだ。
一口だけ、一口だけなら……いいや、駄目だ。こんなに衰弱しきった彼女の血を一滴でも奪ったらきっと彼女――
私は、血を吸うか吸わないかで躊躇っていると、彼女の首筋に2つの穴を見つけた。
それは、牙の跡であった。
(……何故、私が噛む前から牙の跡があるのだ)
これは、これは最悪の、最悪の場面を迎えるかもしれない。もし、もしも私の予想が正しいのであれば、これは紛れも無く……
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