ある夏の日のこと。

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そのニンゲンはひとりで砂場に座り込み、水たまりをじっと見ている。 少し気になったワタシは、そのニンゲンのそばに近寄ってみた。 「…猫だ。こんな時間に海にいるか?普通じゃないや…。」 何やら話しているが普通じゃないのは、ワタシではない。 「…ははは、普通じゃないのは、…俺の方だよな…。」 どうしたんだろう。 何で、このニンゲンからあの女の子と同じにほいがするんだろう? ワタシはこのニンゲンの隣に座り、観察することにした。 「…俺さ、ここでスゴく大切な人を亡くしたんだ…。」 そのニンゲンは語り出した。 大切な人と毎年お話しをするために、この時間、この場所に来てその想いを伝えていることを。 ワタシは思う。 大切な人や想いは、絶対に失うことはない事を。 このニンゲンも、亡くしたと言っていたが、大切な人は、その想いは、このニンゲンの心の中に在る限り、永遠に失われることはないのだ。 心に、一番近くに、大切な人や想いはあり続けるのだから。 ワタシはニンゲンにこの事を伝えるために、その指を軽くなめる。 「……ありがとう…!」 ニンゲンはそう呟くと立ち上がり、歩いていった。 ワタシも行かなくては。 あの女の子に伝えるために。 この水たまりがキレイに光るのは、たくさんの切ない想いが輝きを与えているから。 そう、優しい輝きが世界には在るということを伝えるために。
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