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学校の中は静まり返っていた。
窓から夏の鋭い夕陽が差し込み、誰もいない廊下を鮮やかに飾る。
そんな校舎の片隅にある、女子トイレの中。
「あたし付き合って下さい、あたしと……」
鏡とにらめっこをしながら、呪文のように同じ言葉をひたすらつぶやいている少女がいた。
2年B組、鈴木絵美。好きなもの、猫のにくきゅうとブルドッグの顔の皮。
彼女は今、人生最大の決戦に挑もうとしていた。
たとえトイレ独特の甘酸っぱい匂いが漂っていても、今の彼女には関係ない。
ただ鏡に映る自分の姿と向き合い、時にブツブツとつぶやき、また時には自慢のストレートヘアーを気にしながら、時間を待つのだった。
ふと、我に返ったようにカバンに手を突っ込み、ケータイを取り出す。
午後5時45分。鈴木夏の陣まであと15分だ。
「よ~し」
少しくらい早めに行って待ってた方が、ポイントは高いに違いない。
絵美は最後に鏡に向かってニコッと笑い掛けると、
「ウフフ……大人しく墜ちなさい」
一転して不敵な笑みを浮かべたのだった。
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