第1話 夕暮れの中で

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学校の中は静まり返っていた。 窓から夏の鋭い夕陽が差し込み、誰もいない廊下を鮮やかに飾る。 そんな校舎の片隅にある、女子トイレの中。 「あたし付き合って下さい、あたしと……」 鏡とにらめっこをしながら、呪文のように同じ言葉をひたすらつぶやいている少女がいた。 2年B組、鈴木絵美。好きなもの、猫のにくきゅうとブルドッグの顔の皮。 彼女は今、人生最大の決戦に挑もうとしていた。 たとえトイレ独特の甘酸っぱい匂いが漂っていても、今の彼女には関係ない。 ただ鏡に映る自分の姿と向き合い、時にブツブツとつぶやき、また時には自慢のストレートヘアーを気にしながら、時間を待つのだった。 ふと、我に返ったようにカバンに手を突っ込み、ケータイを取り出す。 午後5時45分。鈴木夏の陣まであと15分だ。 「よ~し」 少しくらい早めに行って待ってた方が、ポイントは高いに違いない。 絵美は最後に鏡に向かってニコッと笑い掛けると、 「ウフフ……大人しく墜ちなさい」 一転して不敵な笑みを浮かべたのだった。
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