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「あ、絵美~」
絵美が足早にトイレから出ると、廊下の向こうから1人の少女が近付いてくる。
その手には、何故かモップとバケツ。
2年B組、斉藤洋子。その可愛らしい容姿と笑顔が人気を呼び、2年の中でもは最高級のブランドを持つ女子だ。
唯一の欠点といえば、遅刻の回数も学年でトップクラスであることだった。
「どうしたの、そんな格好して!?」
清掃のオバサン顔負けの姿をした洋子に、絵美が不思議そうな声を上げる。
「遅刻多いから、罰として掃除しろって言われてさ」
先生からのそんな言いつけも、素直に聞いてしまうと頃が洋子のスゴイところだ。
(侮れない……)
絵美は密かに心の中で対抗心を燃やした。
「絵美こそ、こんな時間にどしたの?」
「ん? ああ、ちょっと……ね」
洋子からの質問に、言葉を濁す絵美。
「ふ~ん、変なの。あっ、あたしもう行くね。あと屋上だけなんだ。またね~」
早口にそう言うと、洋子は軽い足取りで走り去って行った。
絵美は大きくため息をついた。そしてすぐさま時間を確認する。
5時52分。
洋子と遭遇したのは思わぬ時間のロスだが、まだ間に合う。
絵美はケータイを握り締めたまま、スカートがヒラヒラするのもお構いなしに高速でダッシュをした。
「こら~っ、廊下は静かに走りなさい!」
遠くからそんな先生の叫び声がしたが、聞こえていないことにしておいた。
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