第1話 夕暮れの中で

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「あ、絵美~」 絵美が足早にトイレから出ると、廊下の向こうから1人の少女が近付いてくる。 その手には、何故かモップとバケツ。 2年B組、斉藤洋子。その可愛らしい容姿と笑顔が人気を呼び、2年の中でもは最高級のブランドを持つ女子だ。 唯一の欠点といえば、遅刻の回数も学年でトップクラスであることだった。 「どうしたの、そんな格好して!?」 清掃のオバサン顔負けの姿をした洋子に、絵美が不思議そうな声を上げる。 「遅刻多いから、罰として掃除しろって言われてさ」 先生からのそんな言いつけも、素直に聞いてしまうと頃が洋子のスゴイところだ。 (侮れない……) 絵美は密かに心の中で対抗心を燃やした。 「絵美こそ、こんな時間にどしたの?」 「ん? ああ、ちょっと……ね」 洋子からの質問に、言葉を濁す絵美。 「ふ~ん、変なの。あっ、あたしもう行くね。あと屋上だけなんだ。またね~」 早口にそう言うと、洋子は軽い足取りで走り去って行った。 絵美は大きくため息をついた。そしてすぐさま時間を確認する。 5時52分。 洋子と遭遇したのは思わぬ時間のロスだが、まだ間に合う。 絵美はケータイを握り締めたまま、スカートがヒラヒラするのもお構いなしに高速でダッシュをした。 「こら~っ、廊下は静かに走りなさい!」 遠くからそんな先生の叫び声がしたが、聞こえていないことにしておいた。
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