一・出会い

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 路上を薄氷(うすらい)が覆い、その上を粉雪がさらさらと這うように風に踊る。それを楽しみながら、一匹の猫が歩いていた。  白黒の体を闇夜に溶かし、足早に進む。尾を空に向け、足音もなく、ただただ路地裏を目指して歩き続けていた――。 ―※― 『姉ちゃん、オレはヘイバイってんだ。アンタそこに居ちゃいけないよ、在るべき所へ戻った方がいい』  狭い通りを、隙間風のように冷たい流れが吹き抜ける。  大通りを少し逸れた細い路地裏に、白黒の毛を持つ猫が佇んでいた。人間の話す言葉で自らを“ヘイバイ”と名乗る。  誰の姿もない暗がりに向かって語りかけ、金色の瞳で一点を見つめた。そこには誰も居ない――ように見える。  だがその暗がりの一角に、ヘイバイは一人の女性を見付けていた。  揺らめき立つ姿は半分透けていて、暗闇に隠れる。それは明らかに生者とは異なる存在だ。 『姉ちゃん、聞こえてんだろ?』  更にヘイバイが語りかけると、女性は虚ろな視線をそのままに口を開く。 『放っておいて……、お願いよ猫ちゃん』  掠れた、低い声がヘイバイの耳に届いた。潰れてしまったのか、生れつきなのか分からない。
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