一・出会い

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『グゥー……グゥー……』  女性が居た場所には、真っ暗闇にその身を紛らせたお伽話に出てくる鬼に酷似した何かの姿が。それは徐々に巨大化しているようだ。  ヘイバイは一つ息を吐き、四肢を曲げ姿勢を低くする。そこから一気に跳ね上がり、黒い塊の真上まで体を持って行った。 『隠魄(おにだま)、人は殺させないよ』  黒い塊を隠魄と呼び、ヘイバイはその体の小ささから考えられぬ程に大きな口を開ける。先程の二倍に膨れた女性だったモノは、ゆっくりとした動作でヘイバイを見上げた。  真っ黒な体と、穴が開いたように凹んだ鈍く光る目。だらし無く開かれた口からは、息を吐く度に茶色の液体が零れる。地面に落ちると、薄氷とその下にあるコンクリートをいとも簡単に熔かして丸い凹みを作った。  隠魄の動きはまるで遅く、それとは逆にヘイバイの動きは俊敏そのもの。ゆるゆると動かし始めた右腕が、肩まで上がる前にヘイバイの鋭い牙が隠魄の頭部を噛みちぎる。 『ガァァアァァァアッッ――!』  路地裏のスナックや店の前に置かれた酒の空き瓶や木箱、捨て置かれた空き缶もゴミ屑も石ころも。全てが隠魄の悲鳴で揺らいでいた。  瓶は隣り合うそれと耳につく摩擦音や衝突音を発し、空き缶は振動を受けて勾配もないのにカラカラと音を立てて転がる。  しかしそれらに構う暇もなく、ヘイバイは更に口を大きく開いて隠魄の体を飲み込んだ。 『嫌な味だね相変わらず。ご馳走様……』
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