●神の声●

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闇を抜けるのに長い時間がかかった。 俺はこれからどうしたら良いのか…なんて、考えても答えは見つからない。 ただただ闇に身を任せていた。 ふと、真っ暗な闇の中に何かふんわりとした明かりが見えた。 それはゆっくりと近付いて来ると、優しい声で俺の名を読んだ。 「鏡夜…。」 その時、ようやく俺は自分の名を思い出した。 ―鏡夜“きょうや” それが俺の名だ。 そして、名を思い出した途端に俺の頭中に今までの記憶が蘇った。 母上がいる。 父上も妹も弟も…みんな。 父上が俺と弟に刀を教えていて、母上が妹をあやしながら俺たちを見守っている。 懐かしきあの頃。 父上は戦で死んだ。 そして、今宵俺の家族も…。 俺の目の前の光がパッと火花を散らした。 それは、俺の家族に変わった。 「鏡夜、貴方は神に選ばれた。それはめでたきこと。 喜ばしきことなのです。 私たちはずっと貴方を見守っていますよ。」 「待ってください!母上!! 俺も一緒に!」 母上は悲しげに頭を降るだけ。 「兄上、我らの分も…生きてください。」 「待て、蘭丸!一夜!」 弟も妹も悲しみの笑顔を浮かべるだけ。 「鏡夜よ。 悪を斬ることだけに刀を振るのだ。良いな? 私は、そなたの力を信じておる。頑張れよ。」 「父上!行かないでください」 俺の叫びも虚しく、光は消えた。
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