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そういうことがあって、あたしはあの日から累のことばかり考えている。
抱きしめられた時に微かに香った香水の香りと、それに混ざった煙草の匂い。
「大人の男」を感じた。
決してごつくはないのに広い胸、すらっと伸びた指先、切れ長な瞳、小麦色の引き締まった肌に、サラサラと顔に降りかかる黒い髪。
細身の体に黒いスーツは似合ってた。
なんといっても肩に感じた手の感触!!
ときめき――
一目惚れだった。
っていうか、あんな風に助けられて恋をしない人はいないはず!
あの日から日が経つにつれ想いは増すばかりで、でも再会を夢見ても実際に再会するなんて有り得ない。
そんなわけであたしはいつしか妄想少女になってたの!
すると起きてる時だけじゃ物足りないのか、累はとうとう夢の中まで出てくるようになって――
あたしは妄想少女から、欲求不満少女に進化したと言うわけ。
あ~!!誰かあたしと累をもう一度逢わせて!!
―――――……‥夕日が沈みかけてる部屋
キングベッドに座る累とあたし
静かなバラードが流れ
優しく繋がれた手と手
悩ましげな腕があたしの腰にまわり、そっとあたしを抱き寄せる
細く閉じる瞳
近付く口唇
あたしは静かに瞳を閉じ――――……‥
ドンッ!
「痛ぁぁぁい!」
あたしはベッドから落ちてこれが夢だと気付いた。
この時程、親譲りの寝相の悪さを恨んだことは無い。
「あと少しだったのに~!!」
行き場の無い怒りを枕にぶつけ、あたしはもう一度布団を頭からかぶった。
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