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「紫音ちゃん、おはよ!」
教室に入った途端、待ち構えてたように晶が立っていた。
朝だというのにハイテンションな晶。
なんとなく怪しい。
「今日の夜付き合いなさい」
やっぱり……。
あたしは晶にばれないように、小さく溜息をつく。
「またあんな目に合うの嫌だなぁ」
「大丈夫!今日は行き先は決まってるのよ」
躊躇するあたしに晶はニッコリと微笑んだのだが、その笑顔が余計にあたしを戸惑わせる。
この晶の笑顔は何かを企んでる時の顔なのだ。
こういう時は逆らわないのが正解。
「了解~」
仕方なくあたしは晶の誘いを受けた。
家に帰り、出かける準備を終え鏡の前で最終チェックをしていると携帯が鳴りだした。
『着信 綾小路 晶』
晶からだ!
「もしもし?」
「紫音?今日は車だから用意が出来たら降りてきてね」
晶は用件だけ言うと電話を切った。
車?
あたし達まだ運転出来ないよね!?
どういうこと!?
嫌な予感がしたあたしは直ぐさま家を出た。
エレベーターを降りるとマンションの前に1台の黒いセンチ○リーが停まっているのが見えた。
ピカピカに磨きあげられている「いかにも」な車だ。
「まさか」
その車はあたしの姿を確認すると、後部座席の窓が開いていく。
やっぱり――
開いていく窓から見えてきたのは晶だった。
運転席から黒いスーツを着こなした30代の男性が降りてくる。
俗に言うお抱え運転手だ。
彼は運転席の後部座席のドアを開け、あたしが乗り込むのを待っている。
あたしは「ど、どうも」と頭を下げながら車に乗り込んだ。
「びっくりした」
走り出した車の中で、あたしは晶にだけ聞こえるように小声で言った。
「あたしが運転してくると思った?」
ニヤリと笑う晶。
晶ならやりかねないもん。
それにしてもどこに行くんだろう?
行き先を知らないあたしは不安と共に少し胸を弾ませて、車が目的地に着くのを待った。
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